11人が本棚に入れています
本棚に追加
夏期講習の帰り道、偶然、真紀と出くわした。
「今帰りか?透子」
水浴びでもしたのか、髪の先から垂れる水分をタオルで拭きながら、聞いてくる。
「そうだけど。真紀水、被ったの?」
「暑かったから、熱射病予防。みんなでかけあいした」
にっと悪戯っぽく笑う。
馬鹿だ。
「余計暑くないの?それって」
「あぁ、暑いな。汗か、水かわかんねぇ。あ、汗水たらすってのを実践中?」
実に子供っぽく、楽しそうに言う。
まるで当然のように同じ歩幅で歩きだす。
それが、内心すごく嬉しい。
「女子部にも水かけたら、すっげえ怒られた」
「怒るでしょ?普通」
「なぁ?。だからやめとけって言ったんだけど……。服、透けて、大変なことに」
「最悪だ」
多分、首謀者はそれが狙いだったんだろう。
子供すぎて、腹がたつ。
「一年生が被害にあって、びしょびしょだったから、換えのTシャツ貸してきた」
真紀は女の子に親切だ。たまに、狙っててやってるのかと思う。
まだ彼女がいないことは確かだけど……、この分では、近い将来彼女ができてしまうかもしれない。
そんな事を考え出すと、不安になる。どうかしたいと焦る。心が急かしてくる。
「あ、」
通い慣れた道を歩くと、鮮やかなポスターが目に入ってきた。
「透子?」
足を止めた透子を伺うように真紀が同じものを見る。
「花火大会か、季節だな」
「今年は五千発もあがるんだ」
思い出すのは去年の花火大会。だけどそこに真紀の姿はない。
一昨年も、その前も。夏祭りの思い出は小学校で止まっているのだ。
小さな頃、二人で行ったなぁ…。
「行く?」
何気なく、本当にするりと、言葉が耳に入る。
「え?」
思いがけな過ぎて、理解が追いつかない。
「花火大会。オレ、結構行ってない気がする」
「最後に行ったの、小学校じゃない?」
「あ~、そうかも?。透子と行ったなぁ」
思い出に自分がいるのが、嬉しい。
「花火、見たいし。行こうよ?」
少し身を屈めて、覗きこんでくる真紀。
「……いいよ」
胸に熱いものが込み上げてきて、すぐに返事ができなかった。
「じゃあ、約束。忘れんなよ」
にっこりと人懐っこく笑う。その笑顔は昔のままだ。
「うん……」
好きだと思う気持ちが不意に溢れてきて、頷くだけで精一杯だった。
最初のコメントを投稿しよう!