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「浴衣に決定」
夏期講習後、友達を誘って買い物に出た。
「無理」
花火大会に行くことを告げたら、さっさと浴衣フロアに連れ出されたのだ。
「なにぃ?試着もせんと、始めから撤退するのかぁ?」
「幼なじみだよ?。そんな、気合い入れた格好、引くでしょ?」
「馬鹿者。日本古来の民族衣装を使わずにどうする」
友は、時代劇のような話し方になっている。
「何か、大袈裟になるの、嫌だし」
「男の人は浴衣好きだって」
どこからの意見なのか、友は妙に自信ありげだ。
「女の子演出には欠かせないし、もし何か言われたら、つい買っちゃって、着る機会がなかったからとか、言っておきなよ」
「……それなら、平気かな……?」
もしも、浴衣姿を気に入ってくれるなら着てみたいとは思う。
「透子、どんなのが好き~?」
選ぶ気満々な友が、あれこれ柄を探し出す。
「紺……、じゃ地味だし、ピンクとか赤の可愛いよね。飾り帯もふわふわ~きらきら~、あ!」
友がぴたりと足を止めた。
「何?」
じっとこっちを見てにやりと笑う。
「着付け勉強しておかないと、途中で脱がされたら大変だよ」
「馬鹿じゃない?」
冷たくあしらう。
からかって遊びたいのだろうが、すでに顔が赤くなっているのがわかるだけ、効果は薄い。
何気なく、手元の柄を見る。
朝咲のあさがおみたいな優しい青。セットになっているフワフワの帯もベビーブルーのその浴衣に手が止まる。
真紀の好きな色だ。
彼を表すかのような優しい青。
そしてもちろん自分の好きな色でもある。
「お?」
友が寄ってくる。
「これ……」
「いいんじゃない?青だけど、冷たくも強くもない印象だし。透子に合う色じゃない?」
少し、離れて言葉をくれる。
「似合うと思う?」
「試着できるかな?。すいませ~ん」
友はさっさと店員さんを呼びに行ってしまう。
「ち…ちょっと…」
すぐに売る気ありありな店員さんに引きずられて、一通り着方を教わって、レジまで終わってしまう。
さて、帰ろうとした時だった。
「紗羅なら絶対大丈夫だって」
キャピキャピ、ワイワイした女子高生の会話が響く。
「そうだよ。手島も絶対まんざらでもないって」
真紀の苗字に足が止まった……。
身を隠して耳を傾ける。
「でも……、手島くんタオルも使ってくれなかったな」
紗羅と呼ばれた少女の顔は少し沈んでいる。
「照れ臭いだけじゃない?紗羅可愛いし自信持ちなよ」
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