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「--痛っ!」
慌てて立ち上がろうと、バテて言う事を聞かない足に鞭打つ。
だが、何とか立ち上がった拓也の眼前に、もう女はいた。
「ミツケタ」
耳に直接響くような音。
それまでにかかった時間、わずかにゼロコンマ一秒。女の顔は瞬間的に引き歪む。
「--あ」
動く事が出来なかった。今までの疲労せいもあっただろうが、目の前の女がそれ程圧倒的だったのだ。
「お、鬼……なのか?」
そんな問いに答える筈もなく、女はクックックと不気味に笑っている。
「お前が、和彦やか、薫を殺したのか?」
声が震えている。身体も小刻みに震え、身体の芯から恐怖を感じているのだと知った。
「茗は、どうした……」
「何言ってるの?目の前にいるじゃない」
違う。茗じゃない。茗は鬼を封じるのに失敗したのか……
「茗はどうした!!」
拓也は叫んだ。叫ばずにはいられなかった。すると女の顔から笑みが消えた。
「死んだよ」
女は拓也に近寄って押し倒す。そんな拓也の上に、女がかぶさるように乗り掛かった。
手にした包丁を拓也の喉元に突き付ける。切っ先が喉に触れた。
「ツ・カ・マ・エ・タ」
呼吸が出来ない。
身体が動かない。
頭が真っ白になる。
あるのは、そう--死への恐怖だけだった。
死ぬんだ、と初めて思った。
「シネ」
振り上げられる包丁。しかし振り落とされる直前、包丁が音を立てて地面に落ちた。
突如身体を震わせ、ううううう、と呻いている。
「め、茗……?」
女は両手で自分の髪をわしづかみにしながら暴れだした。拓也は何が何だか理解出来なかった。
突如女の膝がカクッ、と落ちて、動きがピタリと止まった。
「茗?」
遠くから声をかける。反応がない。茗なのか、鬼なのか……拓也には全く判断がつかない。
「茗?茗!?」
拓也は震える足で駆け寄る。
それを--茗の身体は片手で制した。
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