第六章 続・鬼探し

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「--痛っ!」 慌てて立ち上がろうと、バテて言う事を聞かない足に鞭打つ。 だが、何とか立ち上がった拓也の眼前に、もう女はいた。 「ミツケタ」 耳に直接響くような音。 それまでにかかった時間、わずかにゼロコンマ一秒。女の顔は瞬間的に引き歪む。 「--あ」 動く事が出来なかった。今までの疲労せいもあっただろうが、目の前の女がそれ程圧倒的だったのだ。 「お、鬼……なのか?」 そんな問いに答える筈もなく、女はクックックと不気味に笑っている。 「お前が、和彦やか、薫を殺したのか?」 声が震えている。身体も小刻みに震え、身体の芯から恐怖を感じているのだと知った。 「茗は、どうした……」 「何言ってるの?目の前にいるじゃない」 違う。茗じゃない。茗は鬼を封じるのに失敗したのか…… 「茗はどうした!!」 拓也は叫んだ。叫ばずにはいられなかった。すると女の顔から笑みが消えた。 「死んだよ」 女は拓也に近寄って押し倒す。そんな拓也の上に、女がかぶさるように乗り掛かった。 手にした包丁を拓也の喉元に突き付ける。切っ先が喉に触れた。 「ツ・カ・マ・エ・タ」 呼吸が出来ない。 身体が動かない。 頭が真っ白になる。 あるのは、そう--死への恐怖だけだった。 死ぬんだ、と初めて思った。 「シネ」 振り上げられる包丁。しかし振り落とされる直前、包丁が音を立てて地面に落ちた。 突如身体を震わせ、ううううう、と呻いている。 「め、茗……?」 女は両手で自分の髪をわしづかみにしながら暴れだした。拓也は何が何だか理解出来なかった。 突如女の膝がカクッ、と落ちて、動きがピタリと止まった。 「茗?」 遠くから声をかける。反応がない。茗なのか、鬼なのか……拓也には全く判断がつかない。 「茗?茗!?」 拓也は震える足で駆け寄る。 それを--茗の身体は片手で制した。
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