第六章 続・鬼探し

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「……茗?」 明らかに様子がおかしい。 何故声を出さない? 何故こちらを見ない? 何故笑っている? 何故茗はここに現れた? いくつもの疑問が脳裏を過ぎり、その意味を理解する前に身体が動いた。咄嗟にとび退く拓也。それと同時に、しゅん、と風を切る音が聞こえた。 その数秒後、熱い感覚と痛みが身体を支配する。 腕をつたい流れ落ちる真っ赤な液体。それを見てやっと気付いた。腕を切られたのだと。 「あ--」 言葉が出ない。目の前にいるのが茗の姿をした何かだと理解したからだ。 「見つけた」 感情の篭らない無機質な音。その声は茗のものとは別物だった。それに対して拓也は一歩退く。 「見つけた」 さらに一歩退く。少しでも間が縮まれば殺される。そう直感した。 だが、そんな距離を埋めようと、女が一歩前に出る。 「……拓也」 「--えっ!?」 突然名前を呼ばれ、ビクッ、と肩を震わせる。 「何で逃げるの?」 低く唸るよう呟く。怪しい足取りでよろよれとまた一歩近付いてきた。 「私に用があったんでしょ?」 興奮するかのように吊り上がった口元。髪に隠れていた狂気を孕む眼光が拓也を捉えた。 とび退いて、ここから逃げ出した。 --たが、逃げられる筈もなかった。 ゆっくりと動き出す茗。 拓也はそんな女に追い付かれまいと、女が近付く度に小走りに逃げては振り返る、を繰り返す。姿を失えばどこから襲われるか分からない。 だがそんなに長くは続かない。さっきからずっと走りっぱなしだったのだ。すでに気力も体力も限界だ。それでも走るしかない。少しでも気を抜いたらすぐにでも崩れてしまいそうなほど情けない足取りで進む。 (まだ……追ってくる……) 女は明らかに走っていないのに、何故か距離が広がらない。女は距離を一定にたまっている。 まるで自分の影と追い掛けっこをしているようだ。絶対に離れる事のない相手。 (もう、逃げられないのか) という気の迷いのせいか、拓也の強く蹴り上げた筈の右足が前に出ず顔から勢い良く倒れ込んだ。頬が焼けるように熱かった。今まで降っていた雨せいで路面はぬかるみ、足を取られたようだ。
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