第六章 続・鬼探し

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「えっ?」 茗の身体は包丁を拾い、両手で握った。 狂気に孕んだ瞳に、強い意思を取り戻す。 硬かった唇を、ぎり、と歯で噛んだ。 包丁の切っ先が、腹部に当てられ、 「……殺させない」 滑るように突き刺された。 「茗!?」 それは一瞬の出来事だった。 「--ごふっ」 うつぶせに倒れ込んで吐血した。 「茗!」 倒れ込んだ茗を慌てて抱き抱える拓也。傷口から絶え間無く流れる血が、茗の身体を真っ赤に染める。 「何で……」 「鬼を、止めるには……これしか、なかったの……」 力無く落とす言葉。 「……拓也……」 「何だ?」 「お、願い……私を幽霊屋敷に、連れてって……」 「何言ってんだ!早く病院に--」 茗の指が、拓也の服をぎゅっ、と掴みしめる。 「……私はもう、助からない……。だから……お願い……連れて、いって……」 今にも死にそうなのに、茗の目は強く輝いて、 「拓也に、言ったでしょ……?私は大丈夫、だから……拓也は何も、心配しなくていいって。私はずっと、前から死ぬ事が……決まってたの。……だから、何も、気にしないで……」 とても綺麗な笑顔を見せてくれた。 「茗……俺は、俺は……おまえに……」 まだ諦められない。すると、 「小夜子」 真っ赤な着物を着た小夜子がいた。その後ろには、白装束に赤い袴の巫女が二人。 巫女の一人は周りにあるのと同じ木箱を持ち、もう一人は鍔のない白い刀を持っていた。 「ごめんなさい……私のせいで……三年も、待たせちゃったね」 小夜子に視線を移す茗。 「いいの、あなたはちゃんと約束を守った。最後に何かお願いはある?」 小夜子はそっと茗の脇に屈み込み、耳を近付けた。 「--」 茗の小さな口から洩れたか細い声は、拓也に届く前に雨音に掻き消された。だが、小夜子には届いたようだ。 「……分かった、約束する。絶対に守るわ」 そう言い立ち上がった小夜子は二人の巫女へと近付いた。 「これより、鬼降ろしの儀を執り行います」 ピッタリと重なり合うこの場に似つかない幼い声。鍔のない白い刀を持った少女が一歩前に出て、小夜子にそれを渡す。
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