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第一章 幽霊屋敷
学校の帰り道。晴れ渡った空に浮かぶ太陽は、すでに山間にその身をこすり付けていた。横合いから突き刺す陽光は赤くなり、皆を一様に赤く染め上げる。
水野拓也(みずのたくや)は人気の少ない坂道を下っていく。
「ねぇ、知ってる?」
おっとりとした声が聞こえ、同時に背中をバシバシと叩かれた。拓也は声のする方を向くと、一ノ瀬薫(いちのせかおる)がいた。
女の子みたいに長く伸びたさらさらの髪を片手でかき上げる薫。女の子ぽい仕草をしているが、決して、そっち系な訳ではないらしい。本人はちゃんと女の子が好きだそうだ。
「知ってるって、何を?」
「近藤の話だよ」
「近藤って、三組の近藤正志か?」
「うん。三組の近藤正志。あのすっごく馬鹿で、最低で、嫌な奴」
近藤正志(こんどうまさし)は俺たちが通う高校のトラブル・メイカーである。中学時代から要注意の生徒だったらしい。
学校にはほとんど来ないし、来たとしても、騒いで授業の邪魔をする、遅刻、早退は当たり前。同級生や後輩を虐めて、金をゆすり取るなどもしている。そんな事もあってか、今では学校全体の余し者となっている。
そんな近藤が、どうやってこの高校に入ったかというと、それは親戚の力を使ったという噂だ。
近藤の家は、親戚同士で県議と市議をやっていて、この三沢町の再開発を手掛けているそうだ。だから、色々なコネがあるという話だ。
「で、その馬鹿で、最低で、嫌な近藤がどうかしたのかよ?」
さして興味もなしに言う拓也。それに対して薫は、
「やっぱり知らないんだ!」
驚き、実に嬉しそうな顔をした。
「行方不明なんだってさ」
「え?行方不明」
坂を下っていた拓也は、つんのめるようにして足を止めた。
「聞いた。一昨日から姿が見えないんだってな」
拓也の隣を歩く眼鏡の男子生徒、佐久間遼(さくまりょう)が話に割り込んだ。
「職員室で先生たちが大騒ぎしてたし、近所でも騒いでた」
「あ、そっか。遼ンとこ近所だもんね」
薫が遼に言った。
「うちは兄さんが刑事だからさ、捜索してるんだ」
薫の兄の一ノ瀬秋人(いちのせあきと)さんは警視庁捜査一課の刑事をやっている。面倒見がよくて、誰にでも優しく接してくれる人で、俺の相談にもよく乗ってくれる。
だが、幽霊やオカルト話が大好きで、科学なんてクソくらえと言っているこの人が、そんな不向きな仕事についているのかは謎だ。
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