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プロローグ 鬼降ろしの儀
「月がない夜には、鬼が出る…鬼を殺すにゃ、宮部を殺せ……」
私は歌うように言った。いや、実際に歌っていたのかもしれない。
薄暗い部屋の中。蝋燭の頼りない橙色の炎が、ほんの少しだけ照らし出した。
部屋全体を囲うように詰まれた木箱。それは人間の頭くらいの大きさで、注連縄が張られ、紙垂がかけられていた。
(まだかしら?)
そう思った瞬間。扉が開き、光が差し込んできた。そこには、白装束に赤い袴の巫女が二人。その間には赤い着物を着た少女が一人いた。
巫女の一人は周りにあるのと同じ木箱を持ち、もう一人は鍔のない白い刀を持っているだけで、あとはいたって普通だったが、赤い着物の少女は異様だった。
拘束されたように手を後ろで縛られ、目には包帯のような布が巻かれていた。そんな状態にも関わらず、赤い着物の少女は落ち着いた雰囲気をしていた。
「これより、鬼降ろしの儀を執り行います」
ピッタリと重なり合う二つの声。淡々とした口調で、二人の巫女が言った。
すると、赤い着物の少女の拘束が解け、はらり、と瞳を覆っていた包帯のような布がほどけた。
(へぇーキレイな顔)
それが、率直な感想だった。
精悍な顔付きの少女。すごく美形で、男か女か分からないほど綺麗だった。耳を隠すくらいのショートカット。鷹が獲物を射抜くような鋭い目付きが、とても印象的だ。
そんな少女の鷹の目が、私を貫く。
「あなたが--なの?」
「ええ、そうよ。イメージと違ってガッカリした?」
赤い着物の少女は私を上から下まで見回した。
「そうね。鬼や神様だって聞いてきたから、もっとすごいのを想像してたの。だから、ちょっとガッカリしたわ」
くすくすと、私は赤い着物の少女の言葉に笑った。
「最後に……何か言うことはある?お願いとか、遺言とか…あ、助けてくれって言うのはなしね」
私の言葉に、少女は俯いて、しばらく黙り込んだ。そして、蚊が泣くようなか細い声で呟く。
「じゃあ…一つだけお願いがあるの。それを聴いてくれれば、あとは何もいらないし、何も望まない…」
「何?」
私は小首を傾げて少女を見上げる。
「--」
フッ、と自然に笑みがこぼれた。最後にこんなお願いをするなんて……
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