第一章 崩壊する日常と邂逅する非日常

2/2
前へ
/6ページ
次へ
ガタゴトと、室内が揺れた。 路傍の小石でもひいたのだろう。実際その揺れは断続的に続いており、殊更に気をかける必要はないのかもしれなかった。 (……それにしても) 彼は嘆息まじりに心中で一人ごちた。 論理的には無視すべき事柄であっても、心情的にはそうもいかない。 彼が座した木板は見るからに固く、揺れの度にぶつかる骨が限界を迎えようとしていた。 彼――クロノ・フィンドールは、馬車に乗っていた。 人が座るのを拒否するかのように固い板に、敷物の一つもないからにはあまり高級な物ではないだろう。それは外観からしてみすぼらしく、馬車というよりは車輪のついた箱といった風情だった。 名称上は乗り合い馬車だが、四人ほど座れる座敷に関わらず今はクロノ一人である。 小規模な町から町を繋ぐ旅脚の一種であり、客が少ないことはめずらしくもなかったが、今日に限ってはその原因はクロノにあった。 座席の後方、申し訳程度に備え付けられた荷台に、獣の首が括り付けられている。犬科と思わしき風貌で、頭部だけなら狼に酷似している。もっとも全身を目にしたことがあるのならその印象は多少変わるだろう。前足が短く、後ろ足の発達した様はむしろ兎に似ているし、牙の鋭さなら狼に及ばない。 それでも、その生き物は『魔物』として、従来の獣に輪をかけて恐れられていた。『魔法』を操る彼らに対して、一般人が抵抗する手段は非常に少ない。 クロノは、それの討伐の帰りであった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加