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「蓮。僕が現場に駆けつけた時、これを拾ったんだが」
自動販売機でココアを買い、取り口から出すことに苦戦していた蓮は、一度父の方を振り返る。
彼が持っていたのは、この前織音にプレゼントしたあの薔薇のペンダントだった。
「それ、俺がアイツにやったやつだ……」
「そうか。きっと落としたんだろうね。……でね、これは僕の希望的考えかもしれないけど、今日1日、織音ちゃんを守ってたのはこのペンダントかもしれない」
「は? どういうことだよ」
「織音ちゃんの話を聞く限り、昼間は何も起こらなかった。でも、夕方になって胸騒ぎがして、帰る途中にこけてしまい襲われた。こけた時にペンダントを落としたってこともあり得る。」
「……」
「僕が言いたいのは、このペンダントを落としたから、奴らに襲われたのかも、ってことだよ。……だから、このペンダントが何か影響してるかもしれないね。……あくまでこれは僕の考えだけど」
ようやく取り出し口から取り出せたココアはぬるくなっていた。今度事務員にでも言おう、自動販売機の取り口が中途半端にしか開かない、と。
そんなことも考えながら、蓮は立ち上がり、父親からペンダントを手渡された。
「蓮から返してあげなさい。……おっと、織音ちゃんが来たようだ。織音ちゃーん!!」
廊下を歩く織音を見つけて、彼方は手を降る。織音も気づいたようで、小走りに駆け寄ってきた。
「すいません。待たせてしまって」
「大丈夫だよ。それより話は済んだの?」
織音は曖昧に笑った。「はい」と答えて頷く織音を見て、蓮は気づいたのだ。頬に涙の痕があることに。
蓮はさりげなく織音の頭をポンポンと叩いてやった。すると顔をあげた織音が蓮の腕を掴んで、はっとしたようにすぐ手を離した。
その時の織音の表情が、しばらく頭の中に焼き付いて離れなかった。
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