night+1 薔薇の香

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 運命というのはいたずらなもので。大切なものを奪っていったり、奇跡としか言い様のない出会いを運んできたりと、気まぐれなことをする。  佐倉織音は、彼女の前から両親が姿を消したことも、吸血鬼の工藤蓮と出会ったことも、それはそれで運命なのかもしれないと思っていた。  つい最近まで、普通に友達と遊び、家族と旅行に行ったり、恋もしたりしていた生活があった。  そして、吸血鬼との共同学校で暮らし始めて、現実味のないような世界に放り込まれて以来、あの頃つまらないと嘆いていた生活は、とても重みのあるものだったのだと気づくようになった。 「織音ちゃん? どうかした?」  蓮の母親、工藤美玲は自家製の庭の手入れをしていた。大切な花たちが雪の重さで倒れてしまわないように、雪を掻き分けてやっている。  工藤家の庭は、季節折々の花がいつも綺麗に咲き誇っている。それは毎日彼女が丁寧に手入れをした賜物でもあった。  
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