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鈍い金属音と共に、生物の骨と肉がつぶされる音がする。三本の指は、機体の奥深くコクピット内部にまで達していた。
「マッマルコォォォ!!」
男は、手前の席の背もたれに両手を預けて叫んだ。
前に座っていた人は、その行為に少し怯えている様だ。
「へっ…これがたまらねーなぁ~」
ドミナントがマニュピレ-タ-を抜くと、指にはマルコの物と思われる血糊がついていた…。
「おお~とっ!これは事故でしょうか~!流血です!レヴェナント選手の物と思われる大量の血が、グロッサム選手の機体の腕に付着しています!平気でしょうか~!」
通常闘技大会は、どちらかの機体が戦闘行動不可能となった時点で決着がつく。武器が武器だけにたまに怪我人や死人がでるが、それは稀な事であった。
コロッセウム内は騒然となった。
救急隊が、ティグレに駆け寄って行く。
ティグレのハッチから、真っ赤な血が滴り落ちていた…。
観客席に居たその男は、力無くその場にへたり込んでしまった。
「なんで…あいつは…。あいつは業とやったんだ…マルコ…」
男は俯きながら僅かな涙を流すと、暫くして顔を上げた。
「ロビエンコ…」
男の目は憎悪に満ちていた。拳を今にも血が吹き出しそうなくらいに握り締めている…。
数週間後…
軍隊や警察の中古M.Aを、作業用などとして販売する店に、その男は居た。
店名は『ディアブロアラゴスタ』赤紫色の悪魔と言う意味だ。
「ロッシーニョ…久しぶりだな…。弟の事は聞いたよ。残念だったな」
白髪の70代くらいの老人が、話しかける。顎には真っ白な顎髭を蓄えていた。
「……おやっさん、闘技用のM.Aを探してるんだが…いいのはあるかい?」
老人はかけていた丸メガネをずらし、驚いたように言った。
「おっ!?お前さん…もうM.Aには乗らないんじゃないのかえ?」
ロッシーニョは、不愉快そうに老人を見つめて答えた。
「…どうしても…大会に出なくちゃいけなくなったんだ」
老人は視線をずらし、明後日の方を見て小さく呟くように言った。
「……なあロジー…。もし仇討ちなんて考えてるんなら止めときな」
「ロジー……か…。懐かしい響きだ…」
老人は向き直り、今度はまじまじとロッシーニョの顔を見て言った。
「そうさ、あんたがまだ軍にいる頃、言われてたあだ名だ…。ディアブロロジーってね」
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