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「ふざけるのはやめろ」
兄はコーヒーを置いた。
「ふざけるっていうのが僕の持ち味だよ。兄さん」
すると兄はため息をついて頭を抱えた。
その姿は本音を話すときの兄の癖だ。
「……頼むから俺たちの気持ちを考えてくれよ、おまえまで何かあったら母さんが悲しむだろ」
「何かって何さ」
少しおどけて見せた。
それがシャクに障ったのか。
兄は声を荒げた。
「おやじのことだ!おまえまであの男みたいになったらどうするんだ!俺たちを捨てるのか!?」
どうやら兄はよほど父が居なくなったことがショックなようだ。
「僕は僕さ」
「だから怖いんだよ」
「大丈夫、父さんもきっと、なにかあって帰れないだけなんだよ」
「そんなわけー」
「父さんが最後に言ってた言葉を覚えてるんだよ」
「?」
兄は顔をこっちに向けた。
「『またな』だよ」
「信じてるのか?」
「人間、信じることを忘れたら何もできないよ」
僕はまた喉に青い飲み物を流し込んで遠くを見つめた。
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