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「随分と勇ましいのね。でも、勇ましいのも嫌いじゃない」
唇を舐めながら言う。
「お陰様で」
須賀は何が楽しいのか、楽しくて楽しくて仕方がない様な顔をする。勇助の怪訝そうな表情を見て言う。
「ごめんなさいね。だって貴方、自分では分かってないみたいだから言うんだけどね。最初に会った時とは別人よ。本当に。初めて会った時の貴方は小生意気にも自分は一人、悲しみを背負って生きてます、ていうすました顔をした、ただのふてくされた坊やだったけども。
──今は違う」
「へえ? どういう風に」
そうね、と須賀が呟く。
「今は私を殺したくて殺したくて仕方が無い顔をしているわ。まるで本物の『鬼』みたいに。
……悪くないわ。私が貴方を鬼に変貌させたのが、嬉しくて嬉しくて仕方がないの」
口の端を上げながら須賀が言う。
「嬉しい褒め言葉をどうも。それじゃあ鬼仲間って事で教えろよ」
須賀は無言で小首を傾げる。勇助は構わずに言う。
「あんたの目的は何だ。俺は、はっきり言ってお前に面識は一度も無い。恨まれる覚えはないんだけどな。もういいんじゃないか。須賀先生。」
「もういいって?」
須賀を睨む。
「どうせ、どちらかが死ぬんだろ。だからもういいんだ」
須賀は赤い瞳を瞬かせる。
「一つ言うわ。私は須賀なんて名前じゃないの。『かおる』それが私の名。そう言って欲しいの。もう偽名などうんざりだわ。こんな人生にもうんざり。偽って生きるのに疲れたの」
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