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かおるは深く深呼吸する。
「とても疲れたの。自分の生き様も、終わりなど見えない人生にも。とてもとても疲れたの。ねえ、知っていた? 一つの事柄に生きながら縛られていたら、それが崩壊した時に大きな虚無感しか残らないって事を。縋るものが無くなった時に悟ったの。私はただの化け物で、ただ人間のふりをして生きているってだけなんだって。どんなにお上品に生きていたって結局、私達は相容れないのよ。自らのおぞましい過去は決して変えられない。それに目を逸らした所で逃げられない。動機なんてあってない様なもの。少し、いたずらしてやろうって思ったの」
拳を強く握りしめた。
「いたずら?」
怒りで肩が震えるのが分かった。かおるは鼻で笑う。
「その姿、素敵よ。……そう。少しこの世界にいたずらしてやろう、て思ったの。私をぼろぼろに弄んだこの世界に。今度は私が仕返してやろうって。面白い具合に世界は歪んだわ。崩壊して行く様はとても美しい。ああ何て簡単な事だったんだろうって実感したの。
──貴方のお姉さんがした事は」
勇助の心臓がとくん、と跳ねた。かおるは鋭い眼差しで勇助を見据える。
「どうして貴方を狙うかって? どうして貴方の周りの人間を殺すかって? どうして貴方を鬼に変えたかって? ……御気分はいかがかしら?」
かおるの赤い目が勇助を捉える。勇助は自分の早鳴る鼓動をただ聞く。
(優奈。お前、まさか)
「私が貴方にした事は優奈が私に全部した事よ。あの子は私から全てを奪った。仲間も愛おしい人も。──皮肉ね。貴方は私を殺したく成る程、恨んでいるみたいだけど、でもそうじゃない。先に仕掛けたのは貴方の姉よ。私を本物の鬼に変えたのは優奈」
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