予感

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男は不思議にも思わない。   ──どうしてこんな時間に学校へ? そんな疑問さえ、男の頭には浮かばない。男の頭にあるのは、どうやって女の携帯番号を聞き出そうかというのと、この後の食事の誘い方だ。 ──男は気付かない。 「お優しいんですね。学校へは用事というか下見に来たんです」 女の魔に魅入られてしまってる自分に……。抜け出す事が出来ない泥沼に、足を踏み出してしまっている自分の足にも。 「……下見、ですか?」 はい、と女は微笑みながら言う。 「実を言うと来月からこの学校に勤務が決まった、『須賀かおる』という者です。ご挨拶が遅くなってごめんなさい。まさか、同じ先生だとは思わなかったので」 軽く会釈をしながら、いたずらっぽい顔で男の顔を覗き込む。 その姿はあまりにも妖美だ。 「それにしても凄い偶然ですね。昨日、越してきたばかりで学校までの道のりを確認しようと歩いていたんです」 (新しい教師が入ってくる話なんてあったっけ……? それもこの時期に……) 男は疑問に思いながらもその考えを払拭させた。自分がたまたま聞き逃したか、これから話があるのかもしれない。 ──きっと、そうに違いない。 男は無意識の内に自分に言い聞かせた。 「そうだったんですか。凄い偶然ですね。僕は佐藤亮平といいます。まだ、教師になって三年のぺーぺーですが、どうぞよろしく」 「こちらこそ。さらにペーペーな教師ですがよろしくお願いします」 お互いの視線が交差する。変な高揚感に佐藤は駆られる。
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