予感

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「でも、本当に良かったです。優しそうな方と御一緒に仕事が出来るなんて、ほっとしました」 ──貴方だったら男なら誰でも親切にしますよ。 佐藤は胸の内でそう呟いたが、表情には出さなかった。須賀という女性と歩いて学校に戻るのは、さながらデートをしている感じがした。 (こういった感情は学生の時、以来だな……) 佐藤の、無意識の内の本能は危険を告げていたが佐藤は気付かない。 ──異様だ。          ──異様だ。 ──周りを見ろ。 時刻は18時をすぎたばかりだ。初夏の日暮れは始まったばかりで、辺りをゆっくりと闇に染めあげる。そんなに暗くはないが人とはすれ違っていない気がする。 佐藤の勤めている学校は山の中にある。そこまで田舎の土地ではなかったが、賑わってるのは市街地だけで一歩外れてしまうと、のどかな田園風景が広がっているだけだ。賑わってる場所とそうでない場所の落差が激しい。 自然豊かといえば聞こえはいいが、学校の近辺は民家もまばらでコンビニが一件あるくらいだ。そのコンビニも夜の11時には閉店してしまうのだが……。 それでも交通の便だけは学校があるという事で、歩いて15分の所に駅があるし、町から直通のバスが運行されているので、そこまでの不便を感じる事はなかった。 緩やかな坂が顔を覗かせる。この坂を上がっていけば学校に着く。山の斜面には木々に紛れ校舎が見える。 ──気をつけろ。 鳥肌がぞわっとたつ。あの声は何だったのか。何に気をつけろというのか、何に……。 佐藤は意味も分からず自分が無意識に考えていた事を反芻する。
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