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おや、と杉田浩美は思った。
今日は家に帰った所で携帯を学校に忘れてきたのに気付いた。取りに帰るのは、とても面倒くさいように思われたが明日からは学校が土曜で休みだ。携帯が手元にない生活は耐えられない。
しぶしぶ制服のまま学校に取りに帰って、大慌てで学校から家に帰ろうとした所で、ばったり目撃してしまった。
──佐藤先生だよね。
学校までの道のりは緩い坂になっているので、そこを下っていく佐藤からは、その光景を見下ろしている浩美には気付かない。木々もちょうど良い感じに浩美の姿をオブラードに包んでくれている。
(ちょっとちょっと、これってスキャンダルじゃない?)
あの腕を組んでいる女性は誰だろう。でも、学校には若い女性の教師はいない。という事は佐藤先生の彼女? 学校まで迎えにきたという事だろうか?
一瞬で色々な事を頭で巡らせながら浩美は小首を傾げた。
(でも……。何か変……)
佐藤は教師の中でも若く、背もすらっとして端正な顔立ちをしていた。爽やかな性格も伴って生徒からの人気は絶大だ。さらに教師としての威厳も保とうとする所もあり、規律には厳しかった。そんな所も女生徒の人気を駆り立てる所以であったのだが……。
その佐藤が学校の前で彼女といちゃついている。浩美には、その姿は何か異様な光景に感じ取れた。
まだ時刻は十九時前の筈だ。学校には他の教師も残っているし、生徒も部活や委員会で、残っている可能性もまだある。
学校の帰り道に彼女とデートするだろうか。ましてや佐藤のファンの生徒が目撃したら騒ぎだすだろうし、他の教師に目撃されても、あの密着感。注意されるのは確実だ。あまりにも不用意に思えた。
現に浩美は目撃した。
浩美はそこまで佐藤のファンではなかったが、日本史の担当は佐藤だったので全くの接点がない、というわけでは無かった。好奇心は駆り立てられる。
──だが。
「まあ、いっか」
浩美は自分の思考を一旦、中止させた。違和感はある。が、自分が色々、憶測で考えても仕方がない事だ。結局、先生も男だったという事だ。それよりも今から佐藤先生の所に駆け寄ってからかってやろう。
──そちらの方がずっと楽しそうだ。
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