予感

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浩美は勇気を出して一歩、足を踏み出す。心臓の鼓動が早まる。何故だろう。自分が間違っている行動を取っているとしか思えない。 ──そう。取り返しのつかない予感。 ふいに携帯のメロディが鞄から流れる。メールだ。 ──息を呑む。 しまった。とんでもない事をしでかしてしまった。浩美は泣きそうになりながら、鞄から慌てて携帯を取り出した。メールの相手は浩美の母親で、まだ学校から帰らないのか、という他愛もない日常だった。 ──そう、日常だ。 浩美は軽く、ふう、と息を吐いた。何を自分は慌ててるのか。何も見つかってまずい事などない。見つかってまずいのは、むしろ佐藤先生だ。浩美は視線を携帯から再び佐藤に戻した。 「ひっ!」 佐藤は坂の入り口から浩美を、ぼおっと見上げていた。その瞳に光はない。その横で女も浩美を見上げていた。 綺麗な女だと思った。佐藤先生にはお似合いだ。禍々しいまでの美しさ……。 浩美は蛇に睨まれた蛙のように縮こまりながら、そんな事を考えていた。 ──動け。 ──動け。 (動いて!) ぱんっ! と頭の奥から何か弾けたような音がした。気のせいだったかもしれない、もう、何でも良かった。この状況から逃げ出せたら……。 (今だ!) それが合図になった。浩美はくるりと反転して、学校に逃げ出した。学校に行けばまだ人が残ってるはず、それに……。 それに、学校にはあの場所がある。あれが浩美を守ってくれるに違いない。浩美は何故か確信をしていた。よく校長が朝礼の時にも言っていたし、父親も母親も、祖母も近所のおばちゃんも言っていた。 学校からは出て2分ともたっていなかったので、走って戻るのは凄くあっという間だった。 (運動場に行かないと!) 嫌な汗を背中に感じながら浩美は走る、走る。 ──そして、立ち止まった。 それは運動場の隅に日が大分、傾きかけている中、悠然とたたずんでいた。
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