23 祝福のチャペル

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レックスとマリアは式を上げた後、2人でそれぞれの両親が眠る地へと赴き報告に行く。 マリアの故郷であるダマーヴァンドの麓にある村は年中雪と氷で覆われた過酷な地である為、村の跡は殆ど残されていなかった。 物悲しい雰囲気になるかと思いきや彼女はもうここに来る事はないと言い、その表情はどこか晴れやかだった。 簡易なものではあったが墓を建て、今は亡き同胞に別れを告げ2人はそこを後にする。 それからフェルゼンの地で眠るシャルロッテとロジェの元に、その後国王デュークにも挨拶へ。 久しぶりに訪れる生まれ故郷の空気は懐かしく、レックスは立場も忘れマリアとありふれた恋人のように大自然の中を歩いた。 最後にバルテウスに戻り、城の敷地内にある王墓へ。 そこでガブリエルとの戦いで世話になった英霊達に改めて礼を伝える。 マティアスは肉体も残さず消えてしまったというが、自分が今ここに存在しているという事は彼の魂が守られた証左だ。 死んだ者の魂の行く末は分からない。 だがもし死後の世界があるとしたら、最愛の女性である母シャルロッテに会えていればいいとレックスは思う。 賢者カーリーはどれだけ離れていようと魂で惹かれ合う相手は存在すると言っていた。 それがおそらく事実であるのは何となくレックスにも理解できた。 「俺達を助けてくれてありがとな。2人の分まで、幸せになるから……」 そう言って花を置いてから隣に立つマリアの手をしっかりと握った。 彼女の左手薬指にはシンプルなリングが控えめに輝き、レックスの首から下げられたロザリオのネックレスにも同じものが通されていた。 「よし、行くか!」 「うん」 やがて王墓に背を向けると、そこにはぼんやりとした2つの影が幻のように現れた。 (……祝福してくれるのか?) 「レックス?」 「……いや」 マリアは怪訝そうにしているが、レックスは口元に笑みを浮かべただけで背後を振り返らない。 2人はに見守られながら歩き出した。 「それよりお前、最近また痩せただろ。城に帰ってきてから食欲ないし、もしかして具合悪い?」 「言われてみれば確かにちょっと体がだるいかも?」 「少し熱っぽい気もするし、久々の長旅で疲れたのかな。スコット先生に来てもらうよう頼んどくから先に休んでろよ」 「わざわざ王宮医まで呼ばなくても……」 レックスはこの後公務の山と向き合わねばならず、彼女とはまた暫く会えなくなる。 加えて、最近東部の森で凶悪なフロストドラゴンが度々暴れており、討伐隊では歯が立たないないと応援を求めてきた為レックスが直々に遠征に行く予定となっていた。 魔剣を自在に操るレックスが前線に立つ事は多い。 今や国の象徴であり、盾であり矛でもあった。 マリアの方も、王妃としての公務だけでなくその類稀な能力と血を役立てるべく診療施設や孤児院を慰問する事を続けていた。 最近では考古学者と共に古文書の解読を進めたり、上級魔術師達に汎用性の高い古代魔法の指導も行っている。  彼女は放っておくとすぐに無理をする為、しっかりと釘を指しておく必要があった。 「……いや、念の為診てもらえよ。お前から不思議な魔力も感じるからさ」 「レックスの魔力?」 「うーん、そうなんだけど魔力の質が少し違う気がするんだよなー」 自覚がないのかマリアは疑問符を浮かべていたが、この時感じたレックスの違和感は正しかった。 が発覚するのはもう少し先の事である。 そして国はまた喜びに満ちるのだが、それはまた別の話。 長い冬が終わり、春を思わせる木漏れ日が優しく辺りを照らし始めていた。 END
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