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「マリア!」
クラスメイトの名を叫んだ少年が、覆い被さるようにして襲い来る敵の群れから少女を守る。
その身体は燃えるように熱かったーーー。
ややあって彼から放たれた地獄のような業火が洞窟の天井まで舞い上がり、辺り一面が一瞬で火の海と化した。
濃密な魔力を含んだそれは炎というよりも爆発に近い。
地下の暗闇は太陽の下に曝け出されたかのような眩しい光に照らされた。
肺が焼けるような熱風と共に、おびただしい数の吸血コウモリが一瞬にして塵と化し、跡形すら残さずに消えていくーーー。
金髪の少女ーーマリアは驚きに目を見開いていた。
彼ーーレックス・コルベールに魔力がないのは学園内で周知の事実だった。
にも関わらず、敵を服従させ強制的に支配下に置いただけでなく、あれほど無数に湧いて出た敵を炎魔法によって一瞬で殲滅してしまった。
普通の力ではない。
その力を持つのは今は亡き王家の血族のみ。
「あなた、だったの……?」
彼こそが自分の探していたターゲットだと悟ったマリアは、数奇な運命の巡り合わせに絶望した。
同時に、次々と疑問が浮かぶ。
(隠していた……?)
でも今までそんな様子は見られなかった。
それに、ここまで敵に追い詰められるまで魔法を使わない理由がない。
おそらく無自覚だろう。
生命の危機に瀕し、突発的に潜在能力が発動したのだ。
確認しようにもレックスの意識はすでに失われていた。
「……何で助けたの」
少女は、命懸けで自分を助けたこの少年が理解できない。
美しく氷のように冷たい青の瞳。
淡く色付いた唇から出た声は、小さく空気を震わせた。
「私はいずれ、あなたを殺すのに」
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