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ーーー翌日。
日が高く登りそれが西に傾いても一向に姿を現さない主に痺れを切らすパウロは、何度目か知らないため息をついていた。
「もう夕方だぞ!?いくら何でも王都に戻らないとヤベェよ!」
「俺はこうなると予想してた」
ギルバートはマリアの住処である古民家の前までやって来ると、昨夜からカーテンが閉められたままの窓を見上げて肩をすくめた。
レックスはともかくマリアからも全く音沙汰がないとなれば考えられる事はひとつだった。
「ヨリ戻したかぁ」
感慨深く言うパウロは昨晩親友をマリアに任せた自分に我ながらナイスアシストだったと自画自賛する。
「5年ぶりだぞ、察してやれ」
「お前が下ネタ言うの珍しいな…いって!」
ギルバートに頭を叩かれたパウロがそこを撫でていると、二人の気配に気付いたらしいレックスが家から姿を現した。
仲間達からしてみれば無理した件など言いたい事は山程あったが、重症だったとは思えない程に回復した様子を見れば小言は引っ込んでしまう。
「心配かけて悪かったな!」
いつになく光を纏わせた清々しいレックスの表情にパウロとギルバートは呆れ顔である。
「ったく、マリアに感謝しろよ」
「何時だと思ってるんだ。で彼女は?」
レックスはバツが悪そうに目線を逸らした。
「王都に連れて帰る。けど、すぐには無理かも……」
「……」
「……」
何となく事情を察した友人二名は顔を見合わせた。
「念の為聞くが、まさか今まで、寝ないで……?」
「化け物かよ」
「少しは休んだっての!あいつの飯がまた美味くてさぁ。……とにかく、しばらく動けないと思う。意識戻ったら面倒みてやんねーと」
開き直って盛大に惚気るレックスだったが、その内容がキラキラの笑顔に似つかわしくない上にハードすぎて、仲間達はドン引きである。
「……予想はしていたが、まさかここまでとは……」
「爽やか王のイメージぶち壊しじゃねえか」
ギルバートとパウロは呆れ返っていたがレックスは詳細を教える気はなく意味深に笑うだけに留めた。
レックスの性質を理解している仲間達もそれ以上追求しない。
「マリアには同情するぜ……。けどま、とりあえず「おめでとう」と言うべきなのか?」
やがて茶化すように片眉を上げたパウロの言葉に、レックスは幸せそうに目を細めた。
久々に見る、少年時代のように気の緩んだ表情に親友達は文句など言える筈もない。
若くして国王となったレックスは一国の主として民の為に尽力してきた一方で、明るい素顔を見せる場面が減っていた。
反体制派によって窮地に立たされた事もあり、いつ足元を掬われてもおかしくない状況が続いたからだ。
信頼していた者の裏切り。不正した者に対しては淡々と処罰を告げ、動揺や落胆などはけして表に出さない。
徐々に疲弊していく姿を見てきた仲間達からしてみれば辛いものがあった。
自分よりも他者を優先する二人が幸せになる権利は十分過ぎる程にある。
これまでの功績は誰もが認めているし、多少の我儘くらい押し通せねば側近の名が廃るというものだろう。
「……仕方ない。エルネスト宰相の特上説教コース覚悟で、一足早いハネムーン休暇を代理申請しといてやりますかね」
「3日が限界だ、パウロ。俺がレックスの代理になろう」
「お、いいね。頭の固いジジイ共も、次期宰相の言葉なら大人しく聞き入れるだろ」
「まだ候補だ」
「お前ら……っ、最高!」
「……全く。これから忙しくなりそうだな」
喜びに目を輝かせるレックスに、やれやれといった表情をしながらも、パウロとギルバートは楽しそうに口の端を上げていたーー。
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