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「魔力もないクズが粋がってんじゃねーよ!」
思い切り背中を建物の壁に打ち付けられた少年は座り込みながら軽く咳き込んだ。
南方特有の褐色肌に癖の強い黒髪。
身軽な装いからは活発さが感じられ、それなりに身をこなせそうな雰囲気を持っている。
しかし目の前に立つ3人の前では状況的に不利とみたのか平謝りしていた。
「やーほんとサーセン、わざとじゃないんでどうか見逃してくれませんかねー」
棒読みの台詞は辟易したような声色だ。
一方、彼を殴ったと思われる大柄な少年は更に頭を踏むように蹴りつける。
「うるせえ!俺は今進級試験に落ちてイライラしてんだよ!」
(単なる八つ当たりじゃねえか!!)
頭を守るように腕でガードするも他の2人に抑えられてしまえばどうしようもない。
初めから降参していたにも関わらず、残念ながら彼らはそれで許してくれるような相手ではなかった。
余程鬱憤が溜まっているのだろう。
攻撃は一向に止まず腹にも何度か蹴りが入ると褐色肌の少年は内心毒づく。
(ったく、めんどくせえなぁ!進級早々こいつらのせいでペナルティは勘弁だぜ!)
穏便にこの状況を打開する方法は諦めた。
かといって力ずくで突破すると大事になり自身にも飛び火する事は明白である。
暴力沙汰となればせっかくの進級も棒に振りかねず、保身の為に猿芝居を続けても、ここは人通りも少なく助けを求める事も難しそうだった。
どうにかして逃げる算段をつけていた時、上空から風を切り裂くような音が聞こえた。
少し遅れて「何か」が勢いよく地面に突き刺さる。
「!」
今まさに拳を振り下ろさんとしていた少年の目と鼻の先にそれが落ちれば、石のように固まった。
「け、剣……⁉︎」
もう少し体が手前にあれば脳天を直撃していただろう。
眼前に光るシンプルだが鋭利な剣に背筋がぞっとし、青ざめたまま上を見上げる。
「なっ!お前はッ……!」
剣の持主は悪びれる様子もなく旧校舎の階上の窓から顔を覗かせていた。
透き通るようなアッシュブラウンの柔らかい髪が秋風に揺れている。
「悪い!手が滑っちまった」
一方、階下にいた大柄な少年の顔は大きく歪められた。
「ふざけた真似してんじゃねえぞ!しかもてめえあのレックスじゃねえか……!」
「そうだけど何で俺の名前知ってんの?」
言いながらレックスと呼ばれた少年は躊躇いなくそこから飛び降りた。
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