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「大丈夫か?」
「助かったぜ」
褐色肌の少年は唇の端についた血を袖で拭うと、痛みに顔を歪めていた。
レックスが手を差し伸べると、彼とそのまま握手を交わすように引っ張って立ち上がらせる。
「俺はパウロ・ジャラ。サウスアーギナスタ出身だ。見かけない顔だと思ったらお前編入生か」
面倒事は基本的に関わらない風習でもあるのか「しかしあの脳筋相手にすげえ度胸だな」と感心した様子だった。
「レックス・コルベールだ。派手にやられてたけど何があったんだ?」
「廊下で肩ぶつかっただけだよ!イワンのやつムシの居所が悪いと無差別に殴ってきやがる!歩く災害だぜ全く」
「よくやり返さなかったな」
「奴と問題起こして退学騒ぎになった奴を死ぬ程見てきたもんで。今後は絡まれても相手しなくていいぜ。それよりお前、ギルバートに目つけられたって一体何やらかしたんだよ……?」
やがて好奇心には敵わなかったらしくパウロが伺うように聞いてくる。
レックスは暫く考えたが本当に心当たりがなかった為「さあ?」と他人事のように答えるしかない。
パウロは冷や汗をかいていた。
「とにかくヤベーぞ。ギルバートはバルテウスの有名な貴族様だ。奴はイワンみてえな小物なんかよりよっぽど厄介だぜ。俺みたいに魔力なしの人間なんて特にな」
ーーここバルテウスでは16年前に撤廃されたとはいえ、未だに貴族制の名残りは根強い。
しかし隣国の山奥の田舎育ちであるレックスは、都会の権力抗争や階級制などには興味がなかった。
今回の編入は育て親のロジェに突如言われたのが切欠である。
勉強に関しては通信教育で十分だったレックスは本来18歳で取得するカレッジの資格を既に12歳で得ていた。
そんな人間が16歳になった途端、急に集団生活に放り出されたのだ。
持ち前の明るい性格もあって対面に困る事すらないものの、勝手の違いに戸惑う事は多い。
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