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小等部からエスカレーター式で進級していくこの学園において編入生は珍しいらしく、登校初日にも関わらず何かと絡んでくる人間も少なくなかった。
聞けばギルバートという貴族や先程の暴力少年、パウロは偶然にも同じ16歳らしかった。
「俺みたいな落ちこぼれが言うと説得力ないかもしれないけど、ここの編入審査は超難関なんだぜ!お前、見かけによらずスゲーな!出身は?親と一緒にここへ?」
パウロはレックスを気に入ったのか次々と質問を投げかける。
「フェルゼンのアデスブール。両親は俺が生まれる前後に死んだらしい」
何でもないように言うレックスだったが初対面で踏み込みすぎた質問を悔いたパウロは「わ、悪い…」と少し顔を曇らせた。
「捨てられた訳じゃないのに実の親の顔も名前も知らないんだ。不思議だろ?」
しかし本人は全く気にしていない様子だ。
「最近、育て親と一緒にリーゲンハルトのアパートに引っ越してきたんだ。俺は寮入るけど。王都の中心街って本当に人多いよな」
田舎者の自覚があったレックスはどこか自嘲的に言った後、歯を見せながら悪戯っぽく笑う。
「あと俺も魔法使えないんだ。同じ落ちこぼれ同士よろしくな!」
編入早々、教室も分からず広い校内を彷徨っていたレックスにとってパウロは有難い存在となった。
魔法が使えないという共通点も打ち解け易い一因かもしれなかった。
科学技術の発達に伴い職業の多種多様化が進む昨今の世界においても尚、魔力がない事をマイノリティと忌避する考えも多い。
特に魔法教育に力を入れているこの学園においては、彼らにとって少し肩身が狭いのだという。
しかし差別的な考えを嫌うレックスには、自分がどのような立場であろうと関係のない話だったーーー。
「魔力ナシの田舎者」
席が段状となっている広々とした教室。
数十人の生徒を前に自己紹介したレックスに向けられた誰かの第一声は、侮蔑に満ちていた。
隣に立つエリーゼ・アギレイと名乗った担任は30代後半くらいだろうか、栗色の髪を後頭部でまとめ上げ眼鏡をかけた女性だ。
美人ではあるが、その奥の瞳は硬質なガラスのように冷ややかである。
「初日から遅刻するとは。ここは世界が誇る名門ですよ。素行にはくれぐれも気をつけなさい」
これには素直に謝るしかない。
何とも幸先の悪い学校生活の始まりだった。
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