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ーーー数時間後。
パウロは突如現れた編入生がなぜ有名貴族に目を付けられたか知る事となる。
「はあああぁぁぁーーーッ!!??」
新学期のクラス編成と共にホールに貼り出された進級試験の成績表を見て、開いた口が塞がらない。
1位 レックス・コルベール 997
2位 ギルバート・フォン・ローエンベルグ 990
生徒達が騒めいている原因は間違いなくこれだった。
ここトライセルアカデミーは各界の中枢を担う人間を多く輩出する名門校であるがゆえに、進級試験も多義に渡り、大変厳しく落第も珍しくはない。
にも関わらずギルバートはこれまで誰にも1位の座を明け渡した事がなかった。
根っからのエリート思考で英才教育をされてきたプライドの高い彼が現在どのような心境かは想像に難くない。
だが冷や汗を流しているのをよそに、当の本人は順位など気にも留めていない様子で廊下の先からやって来た。
自分に注目が集まり、人だかりが割れるように避けている事にも無関心のようだった。
「パウロ!食堂まで案内してくれないか?朝飯ほとんど食ってなくてさ……」
「おいレックス!何だよこれ!誰が落ちこぼれだ嫌味かコラ!!」
動揺していたパウロだがハッと我に帰ると、思わずレックスの肩に腕を回して引き寄せ、握り拳をその腕にぐりぐりと押し付ける。
「こんな所に名前があれば、そりゃ大貴族様にケチつけられるわ!一体何者なんだよお前はっっ!?」
「ん?ああ、これだったのか……」
てっきり喜ぶかと思いきや、意外にもレックスは他人事のような反応を見せた。
「そんな事より腹減ったよ……」
困ったように眉尻を下げて笑うレックスは、冷たく見えがちな切れ長の目の印象を見事に和らげている。
少し癖のある髪に、人懐っこい犬のような性格。
「ぐっ、面倒だけど断れば後で俺が確実に悪者にされるやつ」
(異例の編入といい、一体何者だ?しかもこの表情、分かってやってるならタチ悪いぜ)
誰もが見惚れる容貌に謎のダメージを受けたパウロはそれ以上の追求を諦めた。
何より目の前の少年は只者ではないと天性の勘が告げている。
もしかしたらイワン以上に厄介な人物と関わってしまったのかもしれないと考えるも、時既に遅し。
「ちっ、無駄にキラキラしやがって……」
「キラキラ?さっきから何言ってんだお前?」
「何でもねえよ!!ったく、こっちだよ!」
好奇の視線から逃がすようにレックスの腕を引っ張り、生徒達の合間を抜けていく。
下に兄弟の多いパウロは悲しいかな、生粋の世話焼きであった。
この新人絡みで一波乱ありそうな予感がしたパウロだったが、それは近いうちに当たる事となるーーー。
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