第一節 始まり

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 今までに一度も感じた事のない感覚ーー圧倒的な実力差から来る、絶対的な恐怖がクリアを襲う。絶望すら感じない、ただ死を待つしかない恐怖。  この圧倒的なプレッシャーに怯えるかのように、空には暗雲が立ち込め、ぽつりぽつりと雨粒が落ち始める。   「に、逃げきれるは自信ないし、戦っても絶対に勝てない…… 」  渾身の一撃を放っても、傷つけることの出来ない相手、ガーゴイルなど比べ物にはならない。人の形をしているように見えるが、その力は間違いなく化け物である。 「 ……だったら、結局死んじゃうなら……勝てないと分かっていても、逃げないでいたい!!俺は五大貴族、ヴァンス家のクリア・ヴァンスだ!!!」  次第に強くなる雨の中、気力を絞って顔を相手に向け大きな声で言い放つ。  大槍を放った事によって魔力は底を尽いており、ただでさえ動くことはままならない。その上、絶対的な恐怖によって動くことはほぼ不可能、だがクリアは屈せずに言った。  十歳という若さでありながら、その姿には五大貴族としての誇りが垣間見えた。 「そういう心構え好きだよ」 「えっ?……ッ……」  前方の者の、まるで女性の様な喋り方に驚いて気が緩んだ瞬間――首筋に衝撃が走り、クリアは目の前の水たまりの方向へと倒れた。
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