序章

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 それは彼がまだ少年の頃のお話し―  少年だった彼はその日、焼け野原で一人佇んでいた。彼以外に他に人影は無く、あるのは目の前に積まれた死体の山だけだ。  彼はしばらく積み上げられた無数の屍を見つめていたが、特に思い感じることもないので、視線を死体から地面につき刺さっている刀に移した。刀の刀身は返り血に染まっており、いくつもの肉を切った刃は血を拭わずとも最早使い物にはならないだろう。  この刀で死体の山を作ったのは他の誰でも無い・・・自分だ。  何度も戦い、立ちふさがるものを殺し、潰し、切り裂く…人が息をするのと同じようにそれが当たり前のこと、生きるために戦うのではなく戦うために生きることこそが自らの存在理由であった。 「これはきみがやったの?」  ふいに後ろから声をかけられた。まだ幼い子供の声だ。周りには死体しか無いのだが、声には恐怖や哀れみは無く、また殺意も無い。目の前の事実をただ確認しているだけのようであった。 「・・・」  しかし、彼は振り向かない。  その問いに答える気は無かったし、答える理由も意味も彼には無かったので、相手をせず立ち去ることにした。  彼が無言で歩き出すと目の前にスッと流れるような動作で声の主が立ちふさがった。 「きみはなんのために戦うの?」  先程とは違い強い意志を感じる声だった。そこにどんな感情が込められていたかは彼には分からない。ただ、意思のこもった言葉には不思議と戦う意味に無関心だった彼の心に強く響いていた。  声の主は自分と同じくらいの年頃の少年だった。背は自分より少し高く、上質な衣と袴を履いている。腰には一本の刀を差している。その見た目から予測するにどこかの侍の子だろう…それも身分の高い家の出身。黒髪で端正な顔立ち、そして何より目に入ったのは銀の色をした瞳だ。その瞳はまるですべてを見透かしていそうな瞳であった。その銀色の瞳がまっすぐ自分に向けられている。 「……なんの…ため?」  何のためかと聞かれれば親に命じられたからだ。彼の一族は古から殺しを生業としていたため、小さい頃から殺しの技術を身につけさせられていた。だが、少年が聞いているのはそういう答えでは無いように思えた。しかし、そう漠然と感じるだけで何について問いただしているのかがわからない。そもそも、戦う理由を考えたことなど一度も無かったのだ。  
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