追憶〈後編〉

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――その日は、雨だった。 朝早くから降り続く大粒の雨で、華やかな会場の雰囲気とは逆に雛乃の気分は沈んでいた。 「おそと、まっくら……」 太陽はまだ沈んでいない。通常ならば夕日が空を染め上げる時刻だ。それなのに窓から見る世界は鉛色のどんよりとした景色ばかり。雨が酷い所為で、会場を包む灯りも殆どぼやけて見えている。 椅子に座り足をブラブラと動かしていると、暁久と悠久が部屋の扉を開け中へ入ってきた。 屋敷で別れた時と違い、二人の表情は何処か暗く疲れ切っているように見える。 「あーあー、ただえさえ憂鬱な気分で最悪な状況だっつぅのに、何で開催しちゃうかねぇ」 「仕方ないよ。国の面子もあるし、日本が安全である事を証明する為にも良い機会なんじゃない?」 「ハッ、どうせ叔父上らが圧力掛けてきたんだろ。自分らで仕込んどいて良く言うぜ」 「アキ!」 悠久の強い口調に暁久は口をつぐんだ。 二人の会話に雛乃はこてん、と首を傾げる。会話の意味など分かる筈もなく、何故兄達がピリピリしているのか疑問ばかりを頭に浮かべていた。
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