梶井朔

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「店長、バイトの人が新しく入るってマジですか?」  閉店後の静かな店内。  そう言ったのは、少し前からバイトとして働いている、高校生の基次(もとじ)だ。色の抜かれたつんつんの髪が印象的で女子高生に言わせればイケメン。若い割には言葉遣いも所作もしっかりしておりお客さんからの評判もいいのだ。 「そうそう。来週の月曜から、週四でね」  基次の質問に答えるため、カウンターの下から顔を出したのはこのカフェの店長、光(みつ)。後ろで無造作に束ねられている長くのばした黒髪は、世界中の女性が嫉妬するであろうしなやかさと艶やかさを兼ね備えている。 「女子高生なんだけどね、通信制の学校に行ってるんだって。その、中学の時、いろいろあったみたいで…」  切れ長の目を細め、端正な顔に陰りをみせ光は話す。その言葉を聞いて、基次が少しだけ何ともいえないような表情になるのは、彼の心の優しさだろう。  それは、二人の話を黙って聞いていた朔も一緒だった。 「いろいろ、か…。」 思わずこぼした朔は、胸の奥がツンとわさびを食べたときのように痛んだ気がして、うつむいた。  店内が、やけにまぶしく感じた。
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