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 「剛造さん。こんな所で油を売っていたのですか?」 キッと佐伯を睨む。声の細さと裏腹に意志の強い眼だ「イチマツでは無く十和子だと・・・何度も言わせないで下さい」 イチマツ。市松・・・渾名だろう、少女はその二つ名が嫌いなようだった。しかし彼女の本意では無いにしろ、確かに市松人形を連想させる。  「まぁ、そんなに怒んなって。若い内からシワになっちまうぞ」 佐伯こと剛造はどうやら、この十和子をからかうのが好きらしい。それにしても剛造とは____名は体を表すものだ。  「だれ のっ」  誰のせいで怒っていると____  そう言おうとしたのだろうが、蒼甫の手前言い淀む。  「では、宜しく。----剛造さん、お願いしますね」 最後にもう一度佐伯を睨みつけ、障子をやや乱暴に閉め和室を後にした。  「相も変わらず、見かけと逆に怒りっぽい奴だ」  「あんなにからかっては、可哀相ではないですか?」  「普通はそうだろうよ。たが、奴には必要な刺激なんだ。」 佐伯は神妙な面持ちになる。その表情から蒼甫は、何かを察してこれ以上この話題をすべきでないと感じた。 "何か"は上手く表現出来ない、しかし何もかも知れば善い訳ではない。  着替えも終わり、湖岸に向かう。  ここの湖は、常世ならば名は無いのだろう。でも、何故だろうか。 蒼甫は先だっての茜とのやり取りから、この風景を以前に見ている気がしてならなかった。
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