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「南方 といいますと?」
「ああ。 ごめんなさい。 東南アジアのこと。」
南方とはずいぶん古風な言い回しをするものだ。 だが東南アジアに親戚など居ただろうか。
蒼甫は考える
そんな親戚
・
・
・
あ
居た!
すっかり忘れていたが、ずっと以前に母から聞いた事がある。
「思い出した?」 少女が身を乗り出した。その大きな瞳の、薄い桜色の虹彩が輝きを増す。まるで猫のように。
「ええ。 僕がずっと小さい頃に母がそんな事を言っていました。 確か、母の家系には南方からの移住者が含まれていると。」
確かに母はそう言っていた。 だが、それが何だというのだろう? 質問の意図が見えない。
少女は、頷きながら何やら考え事をしている。
おや?
そういえば他の者は(もしそうだとして)喪服なのに対して、少女だけ白地のワンピースだ。 夕刻の西日により白地に、茜がうっすらと差した感じの色になっている。
つらつらと蒼甫が巡らせている内に、ワンピースの少女は裾を翻し蒼甫に向き直る。 考えが纏まったのだろう。
確信に近い口調で蒼甫に尋ねる。「なるほど。・・・蒼甫さん、お母様の元の名字は圓谷、じゃないですか?」
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