葬歌

2

　｢え？！ どうして。｣
　なぜ判ったのだ？。 蒼甫の混乱はここに至り頂点に達した。 自分の置かれた状況が全く掴めない。
　少女は蒼甫の混乱を察したのだろう、温顔な表情で蒼甫を諭す。その表情は破顔ではなく、あくまでも柔和な温顔で＿＿＿＿｢混乱されるのも無理はないですよね。でも、わたしが貴方のお母様の名字を判ったのにはちゃんと理由が在るの｣
　少女は周囲を見渡す。少しずつ、陽は傾いていく｢ ただ説明するのには、今は時間が足りないかな｣
やおら後ろを振り向くと、目配せで幾つか指示を出した。
｢貴方にはこれから、わたしたちの葬儀に"もう一度"参加して頂きます。そうすればここになぜ来たのかも理解出来るわ。｣
そうか、やはり喪服だったのか。彼女の云う"もう一度"の意味がいまいち掴めないが、まず謎は一つ解けた。
　｢皆さんの服は、やっぱり喪服だったのですね｣
　 ｢そう。もちろん貴方にも喪服を着て貰うわ。その格好じゃあ、恥ずかしいものね｣
　 年頃の蒼甫は己の顔が紅潮するのを自覚した。そうだった、下着一丁だったのだ。その紅潮した青年を少女はクスクスと眺めていたが、思い付いたように ｢蒼甫さん。｣
　 改めて青年の名を呼ぶ。
　｢何か？｣
　｢わたしの名は……、忘れているのよね？｣
　 蒼甫に少女は、嬉しさと哀しみとが入り混じった複雑な表情を、刹那の間、向けた。
　｢申し訳ないですが。｣少女の刹那の表情に、微かに胸を締め付ける感触を覚えた----がそう応えるより無い。本当に知らないのだ。
　いいえ、気に為さらないで。 少女は頭をふると｢わたしの名前はね。｣
　ここで一拍置き、彼女は＿＿＿＿

　｢茜といいます。｣

　じっと蒼甫を見据え、名乗る。その表情はやはり美しく、凛としたものだった。