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『瑠那?いるのか?』
『冬…夜…』
いつ帰って来たのかわからなかった冬夜の声を、背中で聞いたあたしは、さっと涙を拭く。
『何だ、もう見たのか?呆れた奴だな』
『…ねぇ、冬夜。出展が終わったら、この絵ほしいな…。あっ、もちろん買うよ!な、何年かかかるかもだけど、ちゃんと働いて払うから……』
『…………………』
『あたしの思い出に残したいの…』
冬夜は黙って聞いているのか、何も言わない。
あたしは、振り返らないで続けた。
『あたしね、いろいろ考えたけど、やっぱりここにいられないよ。…出展が終わったら出ていくね』
『言いたい事は、それで終わりか?』
『…………』
『こっちを向け』
冬夜の声に、ビクッと震える。
無理だよ。
泣き顔なんて見られたくない…。
『も、もう、決めたんだもん。あたし、ここを出………んっ……!!』
ーー…えっ?
不意に腕を捕まれたかと思ったら、唇に柔らかいものがふれる…。
ど、どうしてーー…?
冬夜の腕の中で、パニックになっているあたしは、抱き締められたまま冬夜の言葉を聞く。
『お前、本当バカだな。まだ、わからないのか?必要だと言っただろ。出て行く事は許さない』
『なっ…、で…でも、あ…たしっ…』
はぁ…と、冬夜がため息をつく。
『風呂に入る。話はそれからだ。リビングで待ってろ!』
そう言い残して、冬夜はさっさとアトリエを出て行ってしまった。
な…何が起こったの?
今…あたし…。
あたし……。
冬夜とキスしちゃった………!?
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