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★★
まただ。
どうも昨日から運が良い。
時刻は7時45分。
登校しようと玄関を開いたら、相澤 薫が密の家を通り過ぎる最中だった。
「あ………おはよう、薫。」
「……………。」
やはり彼女は止まらない。
振り向きもしなければ顔も向けないし、たった今声を掛けたという実感さえ与えてくれない。
何事も無かったかのように通り過ぎてしまう。
虚しく宙を舞う言葉が見えそうで、声を掛けた事に後悔した。
「……挨拶くらい…しろよな……」
呟く。
既にそんな声が届く範囲に彼女はいない。
追いかける勇気もないし、追いかけたところでどうなる、と諦めもある。
彼女は同じ高校の同じクラスだ。
だが学校で話した事は一度もない。
それは高校に限った話ではなく、中学、小学生の時もだった。
そも、密は"集団の中で口を開く彼女を見たことがない"
完全に周囲との接触を遮断しており、授業中以外は教室にさえ居ないことが多い。
それは、密の記憶に残る彼女とは何一つ合致しないものだ。
少なくともあの頃の彼女は良く笑い、良く喋った。
今なら天真爛漫であったと、当時の彼女を表現出来る。
「やっぱり、俺のせい……なのかな」
自分が何も考えずに前だけを見ていたから。
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