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★★
「紫藤君」
放課後。
鞄を手に取り、椅子から腰を軽く上げた所で名前を呼ばれた。
廊下や校門でごった返す帰宅生徒を避けているため、彼の下校はいつも遅くなる。
既に教室内の生徒は疎らで、密も帰宅を考えた矢先の出来事だった。
声を掛けてきたのは、校則を遵守した風貌の少女。
髪の長さもスカートの丈も、何一つ違反になるものがないその少女の名前は確か、佐藤 真奈美と言ったか。
真面目な上に人当たりも良く、少し下がりぎみの眼鏡が愛嬌でクラスでも人気はある。
ありがちだが頼まれれば断れない性分をしており、そんな彼女が担うクラスでの役割は学級委員長だ。
「委員長?どうかしたのか?」
「進路希望の紙、先週の月曜日に渡したの覚えてる?」
「覚えてる。それが?」
「明日の放課後までに集めて職員室に持って行かなきゃいけないんだけど、紫藤君まだ出してないよね。」
「……そうだった。ごめん。」
「出してないの、紫藤君と相澤さんだけだから、明日ちゃんと持って来てね。」
「………善処するよ。」
その言葉に、委員長はふわりと笑う。
「忘れないでね。でもまぁ、紫藤君は良いとして、問題は相澤さんよね。」
「薫?」
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