一章~少年ハ少女二過去ヲ見ル~

12/15
前へ
/31ページ
次へ
「……………。」 「でもそれって、"遊びが無い"って事だよね。心にゆとりが無いって言うのか、私が心配してるのはそこなんだ。目的しか見てないから、周りが見えてない。支えてくれる人がいるなら良いけど、いないならやっぱり不安だよ。」 支えてくれる人。 自惚れて言うなら、その位置にもっとも"近かった"のは自分だろう。 そうなりたいと思った事もある。 否、今でもそう思っている。 「誰かそういう人が居れば、相澤さんも変われると思うんだけどね。」 委員長が再び苦笑した。 それは、まるで。 この少女はそんな事を微塵も考えていないと知りながらも、まるで。 "その誰かはお前じゃない"と。 そう……言われたような気がした。 「あ……ごめん、あんまり関係ない話だったね。紫藤君、もう帰るんでしょう?」 「え………あ、うん」 「そっか、気を付けてね。じゃあ、また明日。進路希望、ちゃんと持って来てね。」 「………あぁ」 頷くと、委員長は満足そうにその場を辞した。 残された密は机の中に手を入れる。 一枚のプリントが手に触れた。 「持ってくるも何も……」 そもそも、持って帰ってさえいない。 進路希望調査。 そんなものは机の中に入れっぱなしだった。 無論、白紙である。 そこには何かを記入した痕跡もありはしない。 「…………。」 くしゃりと机の中でプリントを握り潰す。 八つ当たり以外のなにものでもない。 "その誰かはお前じゃない"と。 そう感じてしまった自分の腹立たしさを、少しでも晴らしたかった。 だが、勿論、当たり前だがそんな行動に何の意味もない。 「………帰ろう……」 一人呟き席を立つ。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加