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ありきたりな話だった。
ここは、面白くもない街で。
それは、面白くもない日々で。
そこは、何一つ変わらない日常の一場面。
そんな世界に諦めている、ありきたりな話。
紫藤 密(しどう ひそか)は帰宅途中、一人の少女に出会して足を止める。
夕暮れに染まる長い髪。
まだまだあどけなさを残していながら、それを必死に隠そうと引き締められた表情。
多分彼女は、万人が認める程に美しい少女ではないだろう。
だが確かに、そこには確かに目を引くだけの華があった。
黄昏がそう見せるのか。
ただ一人で歩くその姿がそうさせたのか。
密は彼女の為に、その足を止めたのである。
「……よぉ。今帰りか、薫。」
相澤 薫。
俗な言い方をすれば、彼女は"幼なじみ"に該当する。
彼の前を歩く少女。
彼女は、声を掛けられたにも関わらず、その足を止めない。
振り返りすらしない。
ただ、一言だけ、呟いた。
「そう。じゃあね、紫藤君。」
「……………」
あぁ、本当に。
"まったくもってありきたりな話だ"
幼なじみなんて単語が珍しくもなんともないように、年月を重ねれば繋がりが薄れていくのもまたよくある話。
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