一章~少年ハ少女二過去ヲ見ル~

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あの頃の密にはその感情を表現出来なかった。 ただ、綺麗だと感じていたのだ。 自分の周りのもの全てが、美しく見えた。 何もないその公園こそどんな場所よりも楽しいと思ったし、住宅が敷き詰められただけの風景さえ退屈とは思わなかった。 「でもね、ママが、怒ってるのに笑うんだよ。楽しかった?って、嬉しそうに聞いてくるの。」 幼なじみの手を引いて走り回るだけで、そこは冒険の舞台で、自分は物語の主人公のように感じていた。 「だから、怒られても平気なんだ。ひぃ君と一緒に遊んでると、ママもパパも嬉しそうだから。」 だから、"密は常に前を向いていた" 「だから、明日も遊ぼうね、ひぃ君!私のお家に絶対来てね、約束だよ!」 見るもの全てが楽しかったから。 一緒に同じ景色を見ているだけで面白かったから。 何一つ見逃したくなくて、いつだって薫の手を引き、前だけを見ていた。 疑う事なく、密は、彼女も同じ気持ちでいるのだと思ってしまっていた。 だが、今にして思う。 どうしてもっと、"振り返ってあげなかったのか"と。 考えれば分かる話だった。 彼は男で、相澤 薫は女の子だ。 価値観が同一であるわけがないのだ。 自分が美しいと感じた景色を彼女もそう感じるとは限らない。
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