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言ってしまえば、自分の行動は自分勝手だったと密は思う。
彼女と一緒に居れば自分は楽しいから、つれ回していただけ。
彼女は……薫は笑ってくれていたが、本心ではなかったのかもしれない。
もっと気遣っていれば、気が利いていれば、或いは。
そう感じるくらいに、彼女の態度は変わってしまった。
故に、約束だけがその場所に残されている。
『明日も遊ぼうね、ひぃ君!』
それは今も。
そして、いまだに果たせていない約束だった。
★★
「………ただいま」
その言葉に何の意味があるだろうか。
どうせ応える人間など居ないと知りながら、密は口にする。
暗闇に包まれた我が家。
カーテンすら開けてない家。
寝て起きて、無意味に時間だけを消費してきた場所だった。
この場所には生活感がない。
否、そもそも"何もない"
あるのはベッドがたった一つだけ。
父親が仕事の都合で此処を離れ、密が高校に入学すると母親は父親を追いかけていった。
どうせ利用しないからと家具類の一切を両親に送り、残されたベッドだけが二階にある。
「………………。」
靴を脱いで二階の自室に向かう。
一階で機能しているのは風呂場とトイレのみで、他は埃の住みかだ。
二階も大差はない。
自室はまだマシだが、両親が使っていた部屋など一年近く立ち入ってさえいなかった。
もとより、何もないのだ。
掃除する意味もないし、掃除するものも、掃除道具だってない。
本当に、何もない。
伽藍堂よりも、抜け殻に近い家だった。
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