一章~少年ハ少女二過去ヲ見ル~

5/15
前へ
/31ページ
次へ
言ってしまえば、自分の行動は自分勝手だったと密は思う。 彼女と一緒に居れば自分は楽しいから、つれ回していただけ。 彼女は……薫は笑ってくれていたが、本心ではなかったのかもしれない。 もっと気遣っていれば、気が利いていれば、或いは。 そう感じるくらいに、彼女の態度は変わってしまった。 故に、約束だけがその場所に残されている。 『明日も遊ぼうね、ひぃ君!』 それは今も。 そして、いまだに果たせていない約束だった。         ★★ 「………ただいま」 その言葉に何の意味があるだろうか。 どうせ応える人間など居ないと知りながら、密は口にする。 暗闇に包まれた我が家。 カーテンすら開けてない家。 寝て起きて、無意味に時間だけを消費してきた場所だった。 この場所には生活感がない。 否、そもそも"何もない" あるのはベッドがたった一つだけ。 父親が仕事の都合で此処を離れ、密が高校に入学すると母親は父親を追いかけていった。 どうせ利用しないからと家具類の一切を両親に送り、残されたベッドだけが二階にある。 「………………。」 靴を脱いで二階の自室に向かう。 一階で機能しているのは風呂場とトイレのみで、他は埃の住みかだ。 二階も大差はない。 自室はまだマシだが、両親が使っていた部屋など一年近く立ち入ってさえいなかった。 もとより、何もないのだ。 掃除する意味もないし、掃除するものも、掃除道具だってない。 本当に、何もない。 伽藍堂よりも、抜け殻に近い家だった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加