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わっと泣いた。
次に想像できたのはその涙が後悔からくるものだと。
列車が動き出す。
白鯨のシャボン玉は割れ、小さな命が窓の外にいる親の元へと帰っていく。
群れをなすように、月明かりに照らされた白鯨はこちらを一瞥してから天へと登っていく。
「ありがとう」
私は心でそう呟いた。誰に、何に対してなのかはわからない。
私はただの駅員なのだから。
『御乗車ありがとうございます。次は、座敷ぃ~、座敷ぃ~。座敷駅でございます。お乗り間違えないようお願い申し上げます』
列車は進む、星空駅へと。
私は落ち着いた老婆を椅子に座らせると背を向け、次の車両に手を掛ける。
ふとクジラの声で「安らかに」と聞こえた時、柔らかな柑橘系の香りがまだ車内を包んでいた。
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