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列車は月を周り、速度を速めた。
上へ上へと。
外の景色に黒が繁殖する頃、私は次の車両に手を掛ける。
「わーん!」
「うるさい!黙れっ!」
突然の怒号に息を飲む。
こんな穏やかな列車で怒号とは実に不愉快でならない。
気を取り直し、車両に入ると、先程と同じく窓際にひとりの中年男性と少年が腰掛けていた。
お互い向き合うように掛けてはいるのだが、いかんせん男は怒りに満ち溢れていた。
男性は私を見つけると、咳払いでネクタイを締め直す。バツが悪いと感じたようだ。
50代後半だろうか、少年と比較すると父親よりかは祖父に見えた。
「あ、駅員さん。ちょうどいい、この子供をどっかやってくれ!大至急だ」
貧乏揺りの好きな男である。
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