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「おい、柳井、ちょっとこっち来い」
部長が呼んでいる。なんだろう。部長の方へ走っていく。
「なんでしょうか?」
「おい、周りの二年もちょっと来い」
部長は二年生を集める。部長の横にはもう一人の三年生兼副部長がいた。
「いいかお前ら──お前らに恋愛禁止令を発行する」
完全に僻みで作った命令だった。部長はテニス馬鹿で、浮き足立った女の噂は聞いたことがないどころか、あまりに副部長と行動を共にしすぎているせいか、あっちの噂すらある。
ともかく、浮ついたことがあると、テニスの技術向上に支障が云々──
と部長は言いたいらしかった。部長は去年から熱血だったけど、正直、女子テニス部の栄誉を聞いてから、鬱陶しいくらいに熱血だ。
ここで去年の男子テニス部の輝かしい功績を明かそう。
──地区大会二回戦ストレート負け。
僕たちは、その部長の注文を聞く気ははなはだ無かった。それは、俺の朋友たちもまったく同じらしかった。
部長はその場を去り、見学に来ている新入生たちを丁寧に案内し、説明をしているみたいだった。
副部長が吐き捨てるように僕たちに再度同じようなことを言う。
うんざりしかけつつも表面上は笑ってうなづいておく。すると、副部長はとんでもないことを口にしようとした。
「女子、聞いてくれ!合同とはいえ、男女の力の差を考慮するとしたら、この場合、合同練習などしている場合ではないのではないか?」
副部長の言い方はいつも遠まわしだ。この語り方に慣れた僕らには言いたいことが理解できたが、女子は戸惑っていた。
「はあ?言ってる意味よくわかんないんだけどー」
帽子を被っている男勝りな印象を与える女子の一人が遠くから疑問を投げかける。
これは──チャンスか。
僕と数名の仲間たちはすぐさまにキレた返答を返した。
「<合同練習>よりも、<合同試合>をやって、まず実力を試し合いませんか?ってことですよ♪」
部長と副部長は女性に免疫がなさすぎるためなのか、その場にヘタリと座り込み、女子からは驚きと歓喜の混じった声が飛び交う。僕たちは、計画通り、とアイコンタクトで意思疎通していた。
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