8

3/7
255人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
「そういえば、今日は誕生日だったな。おめでとう」 沈黙を打ち破って、白々しい父の声が耳に響く。 緊張が途切れ、あたしは思わず笑ってしまった。 「もうおめでとうなんて歳じゃないし」 母があたしを産んだのは、今のあたしよりも一歳若い頃。 早くに結婚して、早くに亡くなってしまったのだと、今更ながら気づいた。 「……手紙。届いたよ」 父がわざわざ足を運んでくれたのだろう。 消印のない、過去からの手紙。 「そうか」 父は、それ以上何も言わない。 だから、あたしもそれ以上触れないことにした。 小さく息を吸い込む。 見えない母の力を借りて、あたしは未来へ一歩踏み出した。 「父さん。あたし、赤ちゃんができた」
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!