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「そういえば、今日は誕生日だったな。おめでとう」
沈黙を打ち破って、白々しい父の声が耳に響く。
緊張が途切れ、あたしは思わず笑ってしまった。
「もうおめでとうなんて歳じゃないし」
母があたしを産んだのは、今のあたしよりも一歳若い頃。
早くに結婚して、早くに亡くなってしまったのだと、今更ながら気づいた。
「……手紙。届いたよ」
父がわざわざ足を運んでくれたのだろう。
消印のない、過去からの手紙。
「そうか」
父は、それ以上何も言わない。
だから、あたしもそれ以上触れないことにした。
小さく息を吸い込む。
見えない母の力を借りて、あたしは未来へ一歩踏み出した。
「父さん。あたし、赤ちゃんができた」
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