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しばらく待ってみたが、反応はなかった。
父はどんな顔で聞いているだろう。
どんな気持ちでいるだろう。
思いながら、あたしは続けた。
「産みたいんだ。産んで、ひとりで育てたい」
「……相手は」
怒った様子もなく、父はそれだけ返してきた。
耀ちゃんの優しい笑顔が鮮明に浮かんでくる。
あたしは少しだけ泣きそうになった。
「大好きなひとだよ。でも別れたの。もう会わない。こどものことも言ってない」
電話の向こう側で、父が低い声で唸るのが微かに聞こえた。
耀ちゃんがいくら復縁を願っても、拒み続けてきた理由。
ただの意地っ張りのようで、自分でもよくわからなかった。
でも、母の手紙を読んだ今なら、はっきりとわかる。
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