255人が本棚に入れています
本棚に追加
「何にも気にして生きてないくせに、よくいう」
「人を脳天気みたいに」
「脳天気でしょ、アズミ。基本的に」
図星をさされて黙り込むと、彼は笑みを消して再び夜空を見上げる。
つられてあたしも見上げてみると、まんまるな月がふたりを照らしていた。
ずっと昔から変わらずそこにあるのに、まるで産み落とされたばかりの卵のように儚くて、触れたら壊れそうな月。
「きれいだね」
「きれいだね」
口をついて出る台詞は全く一緒で、しかも同時だった。
あたしたちは肩を寄せて笑いあい、どちらからともなく歩みを止めると、それからしばらく月を眺めつづけた。
ぽかんと子供みたいに大口を開け、優しい時間を共有した。
それだけで幸せだった。
最初のコメントを投稿しよう!