2

3/3
前へ
/37ページ
次へ
「何にも気にして生きてないくせに、よくいう」 「人を脳天気みたいに」 「脳天気でしょ、アズミ。基本的に」 図星をさされて黙り込むと、彼は笑みを消して再び夜空を見上げる。 つられてあたしも見上げてみると、まんまるな月がふたりを照らしていた。 ずっと昔から変わらずそこにあるのに、まるで産み落とされたばかりの卵のように儚くて、触れたら壊れそうな月。 「きれいだね」 「きれいだね」 口をついて出る台詞は全く一緒で、しかも同時だった。 あたしたちは肩を寄せて笑いあい、どちらからともなく歩みを止めると、それからしばらく月を眺めつづけた。 ぽかんと子供みたいに大口を開け、優しい時間を共有した。 それだけで幸せだった。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

255人が本棚に入れています
本棚に追加