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「なぁ、俺が何かしたなら謝るから、な?」
何度も何度も、振り返ろうとしては菊の無言の拒否にあって、ペリドットの瞳は途方に暮れている。
謝ろうにも慰めようにも、とにかくきちんと向き合って貰わない事には対処できないし……
何より、心臓に悪いではないか。
「頼むから泣かないでくれよ…」
こちらまで泣けてきそうだ、と嘆息する。
行き場の無い手を後ろにやって丸い頭をぽんぽんとしてやると、少しだけ身じろぐ気配がした。
「困らせる、心算は、無かったのですが、」
掠れた声は存外しっかりしていたが、それでも顔は上げない。上げられないのだろう。
「貴方が、あんまり、優しいから」
あやすように頭を撫でる掌の動きに幽かな泣き笑いを浮かべて、菊は囁く。
「むかしに、あの頃に、帰れるような気がして」
「……うん」
もう一度、ふたりで。
少し自分よりも広い背に縋り付いたまま、菊は思い出していた。
そう、あの可憐な白い花、スノゥドロップは--
花言葉を『希望』と云ったのだ。
いつか さくらのしたで
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