102人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
「ふん、奪ってやるのは簡単だけど…」
鼻を鳴らすアルフレッドに視線を向け、嘆息する。
……閉じ込めておく事は可能なのだろうか。どんなに豪奢で堅固な鳥籠だとしても、いまだ飛ぶ力を隠したこの鳥を。
舞い納めた菊はすとんと力を抜いた。一旦畳の上に坐った後、弱々しく男に向かって笑んで…
ことん、と。意識を手放した少年の手を男は穏やかな様子で握ってやり、すぐに向き直った。
成り行きを見守っていた二人に対し、文句の付けようのない端整な礼をする。
「用が済んだなら帰るといい」
つんけんしたアルフレッドの物云いにも動じず、終始無言で男は去った。
「あー。俺も帰る」
「…そういえば君、本当に何しに来たんだい?」
「別に何だっていいだろ。じゃあな」
再びアルフレッドの膝の上に引き取られた菊の、たおやかな寝顔を少しばかり名残惜しげに見つめて。
アーサーは辞意を表し手を振った。
そう、遠い日の事ではないだろう。白い羽を翻して鳥が飛ぶのは。
その時は、また手を取り合えるだろうか。
かつてと同じく、柔らかな笑みで情を交わせるだろうか。
--次に逢う時は、あの闇色の瞳に強く見据えられたいと、願った。
天地の神にそいのる
朝なぎの海のごとくに
波たたぬ世を
〈昭和天皇御製〉
最初のコメントを投稿しよう!