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乾ききらぬインクを直接触らないように、華奢な指先がサインをなぞる。
二人分の名前を確認して、黒髪の少年は厳かに頷いた。
「はい、確かに」
ほ、と臨席の高官達から安堵の息が漏れる。実際にサインをした外相と駐英公使は硬い表情をほんの僅か崩して握手を交わした。
「これで、今日から正式に同盟関係ですね」
これからどうぞよろしくお願いします。
深々と頭を垂れた菊に、アーサーは鷹揚に頷いてみせた。
「疲れているだろう?別室を用意してある、くつろぐといい」
と、紅茶を飲みつつ二人で落ち着いたのはいいが、
「……って訳でな」
「……」
どうにもこうにも、会話が続かない。
相手を興がらせる洒脱な会話を絶やす事をルール違反とする英国とは違い、日本では沈黙は非礼に当たらないらしい。
自国を有利にすべく熱弁を奮う外交官とて、役目を果たした後は例外ではなく。
またそして、目の前のこの少年も。
国民性の違いというものがあるのは、判る。判るのだが--
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