第一話

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  「来週の休み明けから始まるテストに対して、金曜日の今日に危機感を持ち始めるのは、いささか問題だと思うのだけれど」  このフォローは必要だったのか、とにかく脳内で屁理屈をこねていると、前方へと向き直った加奈がそんなことを言ってきた。なんだそんなことか、と呆れているのが態度からよく伝わってくる。  声に出すと倍以上になって返ってくるので心中にて少しばかり反論させてもらうならば、俺だって今日に至るまでの毎日を、なにもせずにのほほんと過ごしていたわけではない。バカはバカなりに辛酸を嘗めてきたのだ。  まずは一日の復習から始めようとノートと教科書を開き、しかし眠気と格闘しながら埋めたノートには解読不可能な暗号しか刻まれておらず、仕方なく翌日の予習に切り替えるも、それまでの過程を理解できていない頭でそんな高度なことができるはずもなく、結局は部屋に入り浸っている雫と遊んでその日を終えてだな……あ、のほほんとしていたことがつい今しがた発覚しましたサーセン。  部活動がないとやけに閑散としているグラウンドを通り抜け、ゴミ捨て場へと辿り着いた。燃やせるものは焼却炉へと放り投げ、そうでないものは種類に応じて別々のゴミ箱へと投げ入れていく。  どうでもいいけど、ゴミを挟むこの金属の棒みたいなヤツに名前あるのかな。わりと気になる。 「訊いても意味ないと思うけど」そう前置きしてから肩越しに振り返り、背後の加奈に訊ねる。「加奈は勉強進んでるのか?」 「当たり前よ。テスト前にも勉強しないのなら、いつするのって話じゃないの」  腕を組み、そう質問されることすら心外の至りだと言わんばかりに答える。加奈ならノー勉でも高得点を獲得しそうなものだが、それはテストにウェイトを置かない平素の予復習がきちんとできているからだろう。勉強に力を注げる精神構造がいたく羨ましい限りだ。  いや、隣の芝生はなんとやらか。だれかれなしに苦労はあるものだしな。  俺は肩を竦め、ゴミの分類に黙々と没頭することにする。こちらの日常生活について言及されても困るし。  他にも、加奈と向き合っていると、なにもしていないのに責められているような空気を感じるせいでもある。たぶん、生半可な優しさを見せることなく、ズバズバと正論を言ってのける性分ゆえだな。そういうところも含めて好きなのだが、時と場合によるのだ。  
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