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「で、人に訊ねてばかりいないで、アンタはどうなのよ」
ささやかな抵抗など無意味なのだと悟った瞬間である。
空になったゴミ袋を小さく小さく懇切丁寧に畳んでいきながら、俺はなんとか話を逸らせやしないかとごまかしの一手を探していた。しかし、背中に刺さる加奈の視線は手詰まり感を強め、思考力が低下の一途を辿っている俺は前途に光明を見出だすことができない。
気付けば、既にゴミ袋はすっかり手中に収まっていた。時間稼ぎは期待できない。こうなってはもう八方塞がりでお手上げだ。
「加奈ちゃん」
「なに?」
そんな俺の様子を察し、見るに見かねたのかどうかは定かではないが、先ほどからわりと口数の少なかったように思える雫が加奈に身を寄せる様を視界の端に捉えた。
もしかすると助け船?
こういう場合における雫の言動がプラスに働いたためしがあったかどうかは追究すべき謎だが、このときばかりは信じてみたくなったんだ。すぐ裏切られたが。
「あんまり問いただしちゃダメだよ。優にだって、答えたくても答えられないときがあるんだからさ」
「ああ……なんとなくそんな気がしていたけど、いまの言葉で確信が持てたわ。優輝、もうなにも言わなくていいから安心なさいな」
「……」これほど優しさが心にしみるとは思わなんだ。
がくりと項垂れる俺の肩を、不意にだれかが叩いた。顔を上げてみると、誇らしげとでも表現すべき心情を全身に表出した雫が俺に微笑を向けている。拳から親指を突き出し、耳を寄せ、
「礼はいらないゼ」
「――まずそのドヤ顔をやめろバーロー!」
「ひ、ひゃあ!?」
あっという間に堪忍袋の緒が切れた。落ち込んでいた分、その跳ね返りは大きかったと言えようか。
大声に怯んだ雫の肩を掴み、力のままに前後に揺さぶる。残像すら見せる揺れのなか、俺は目を回す雫の顔を垣間見た。なんだか、なにか喋りたそうにもごもごと口を動かしている気がするが、実際には「あわあわ」という声しか絞りだせていない。
「なんなの? 俺のなけなしのプライドをズッタズタにしといて、本気で自分エラいとか思っちゃってんの? なぁ!」
俺の頬を濡らしたのは、なにも汗のためばかりではない。
「よ、よかれと思って……!」
「諸刃の剣ってレベルじゃねーぞお前の優しさ!」
「――あー、もう、うっさいアンタら!」
「おわっ……!」
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